多様な家族とデジタル社会:地域包括支援センターに求められるテクノロジー活用の視点と支援
現代社会における多様な家族とテクノロジーの接点
近年、スマートフォンやインターネット、様々なオンラインサービスが生活に深く浸透し、私たちの暮らしや家族のあり方にも大きな変化をもたらしています。地域包括支援センターの業務においても、支援対象となる多様な家族がテクノロジーから様々な恩恵を受けている一方で、デジタル活用の格差や新たな課題に直面しているケースが増加していることを実感されていることと存じます。
本稿では、多様な家族がデジタル社会とどのように関わっているのか、テクノロジーがもたらす可能性と課題を整理し、地域包括支援センターがこれらの状況に対してどのような視点を持ち、実践的な支援を行っていくべきかについて考察します。
テクノロジーが多様な家族にもたらす可能性
テクノロジーは、多様な家族の生活の質を向上させる多くの可能性を秘めています。
- コミュニケーションの促進: 遠く離れた家族や親戚とのビデオ通話、SNSを通じた日常的なやり取りは、物理的な距離を超えた繋がりを維持・強化することを可能にしています。特に、高齢の親と離れて暮らす成人した子、単身赴任中の家族などにとって、テクノロジーは家族の絆を保つ重要なツールとなり得ます。
- 情報収集の容易化: 制度に関する情報、医療・介護に関する最新知識、地域のイベント情報などがオンラインで手軽に入手できるようになりました。これは、必要な情報になかなかアクセスできなかった家族にとって、大きなメリットとなります。
- 孤立防止と交流機会の創出: オンラインコミュニティや趣味のグループに参加することで、地域での物理的な繋がりが希薄な場合でも、社会的な繋がりを維持したり、新たな交流の機会を得たりすることが可能です。ひきこもり状態にある本人やその家族が、匿名性の高いオンライン空間で情報を共有したり、支援に繋がるきっかけを得たりするケースも見られます。
- 見守りや安全確保: 高齢者の見守りサービス、子どもや障害のある方の位置情報を確認できるアプリ、スマートホーム技術などは、家族の安全・安心を確保する上で有効な手段となり得ます。
- 生活の質の向上: オンラインでの買い物や行政手続き、遠隔医療相談など、テクノロジーを活用することで、外出が困難な方や、仕事や介護・育児等で多忙な家族の負担を軽減し、生活の利便性を高めることが期待できます。
テクノロジーが多様な家族にもたらす課題とリスク
一方で、テクノロジーの普及は新たな課題やリスクも生み出しています。
- デジタルデバイド: 高齢者、経済的に困窮している世帯、障害のある方、情報リテラシーに不安がある方など、テクノロジーの利用に困難を抱える層は依然として少なくありません。これにより、情報格差やサービスへのアクセス格差が生じ、必要な支援から取り残されるリスクがあります。
- 操作・理解の障壁: デバイスの操作が難しい、オンラインサービスの仕組みが理解できないといった理由から、テクノロジーの恩恵を受けられない家族がいます。
- 誤情報・詐欺被害: インターネット上には不正確な情報や悪質な詐欺情報が氾濫しており、情報リテラシーが低い家族が被害に遭うリスクがあります。
- 新たな問題の発生: スマートフォンやインターネットへの過度な依存(ネット依存、ゲーム依存)、SNSを通じたトラブル、オンライン上の誹謗中傷、個人情報の漏洩など、テクノロジーに起因する新たな問題が家族関係に悪影響を与えたり、本人の心身の健康を損なったりするケースがあります。
- 家族内の利用格差: 家族内でデジタルリテラシーに差がある場合、コミュニケーションの分断が生じたり、一方に過度な負担がかかったりすることがあります。
地域包括支援センターに求められる視点と実践
多様な家族を支援する地域包括支援センターにとって、テクノロジーは単なるツールではなく、家族の現状を理解し、支援を構築する上での重要な要素となりつつあります。
-
アセスメントにおけるテクノロジー活用の視点: 家族のアセスメントを行う際に、世帯内のテクノロジー利用状況(デバイスの有無、インターネット接続環境、利用頻度)、デジタルリテラシーのレベル、テクノロジーに対する意向や不安、過去の利用経験(成功体験・失敗体験)などを丁寧に聞き取ることが重要です。これにより、家族が抱えるデジタル関連の課題やニーズを把握し、適切な支援に繋げることができます。
-
デジタルデバイド解消に向けた支援: デジタルデバイドを抱える家族に対して、以下のような具体的な支援を検討します。
- スマートフォンやタブレットの基本操作に関する個別または少人数の教室の案内・実施。
- 自治体や社協等が行うデジタル機器の貸し出し、通信環境整備支援に関する情報提供。
- オンラインでの手続きやサービス利用の伴走支援。
- 信頼できる情報源へのアクセス方法、フィルタリング設定、詐欺対策に関する啓発。 これらの支援にあたっては、家族のペースに合わせ、否定的な言葉を使わず、根気強く関わることが求められます。
-
テクノロジーを活用した支援の検討: テクノロジーを支援のツールとして活用することも有効です。
- 遠方の家族とのオンライン会議による情報共有や状況確認。
- オンラインでの相談窓口やコミュニティの紹介。
- 見守りデバイスの導入支援(ただし、本人の同意とプライバシーへの配慮は不可欠)。
- 多職種・多機関との情報共有におけるセキュアなオンラインツールの検討(ただし、情報セキュリティ規定の遵守が必要)。
-
新たな問題への対応と連携: ネット依存、オンライン詐欺被害、SNSトラブルなど、テクノロジーに起因する問題が疑われるケースについては、専門機関(精神保健福祉センター、消費生活センター、警察など)との連携が不可欠です。問題の背景に他の要因がないか、家族全体の状況を含めて多角的にアセスメントし、適切な機関へ繋ぐ役割を担います。
-
地域資源との連携: 地域のNPO、ボランティア団体、公民館などが実施するデジタル関連の講座や相談会など、既存の地域資源に関する情報を収集・共有し、家族のニーズに合わせて適切に連携することが重要です。また、地域のIT関連企業や大学生などとの協力を模索することも考えられます。
結論
テクノロジーは現代社会のインフラとなり、多様な家族の生活に不可欠な要素となっています。地域包括支援センターは、この変化を正確に理解し、テクノロジーが家族にもたらす「光」(可能性)と「影」(課題・リスク)の両面に目を向ける必要があります。
単に機器の使い方を教えるだけでなく、家族一人ひとりの状況やニーズに合わせて、テクノロジーを安心・安全に、そしてポジティブに活用できるよう支援すること。また、テクノロジーに起因する新たな問題に対して、早期に気づき、適切な専門機関と連携すること。これらの視点が、これからの地域包括支援センターには一層強く求められていくでしょう。
多様な家族がデジタル社会においても孤立せず、安心して自分らしい生活を送れるよう、私たちはテクノロジーとの向き合い方を共に学び、実践的な支援を継続していく必要があります。本稿が、日々の業務における多様な家族への支援の一助となれば幸いです。