家族と社会の包容性ラボ

経済的困窮と家族のウェルビーイング:地域包括支援センターが担う複合的課題へのアプローチ

Tags: 経済的困窮, 家族支援, 地域包括支援センター, 多職種連携, 社会福祉士, 複合的課題, 社会資源, ウェルビーイング

はじめに

現代社会において、経済的困窮は特定の家族形態に限らず、様々な背景を持つ家庭が直面しうる課題です。非正規雇用の増加、低賃金労働、不安定な社会保障制度、予期せぬ失業や病気など、様々な要因が複合的に絡み合い、家計の悪化を招いています。こうした経済的な困難は、単に物質的な不足に留まらず、家族関係、子どもの健全な育成、高齢者や障がい者のケア、心身の健康など、家族全体のウェルビーイングに深刻な影響を及ぼすことが指摘されています。

地域包括支援センターは、高齢者の総合相談窓口として機能していますが、地域住民の複雑化・複合化するニーズに応える中で、経済的困窮を背景とした課題に直面する機会も少なくありません。こうした家庭への支援は、単一の制度やサービスでは対応が難しく、多角的な視点と多職種・多機関連携が不可欠となります。

この記事では、経済的困窮が家族のウェルビーイングに与える影響を概観し、地域包括支援センターがこれらの複合的課題に対してどのようにアプローチし、実践的な支援を提供できるのかについて考察します。日々の業務で多様な困難を抱える家族と向き合う社会福祉士の皆様にとって、新たな視点や支援のヒントを提供できれば幸いです。

経済的困窮が家族に与える影響

経済的な困難は、家族の様々な側面に影響を及ぼします。厚生労働省の国民生活基礎調査などを見ても、所得と健康状態、子どもの学習状況、家族関係には一定の相関が見られます。具体的には、以下のような影響が挙げられます。

これらの問題は単独で存在するのではなく、相互に影響し合い、課題をより深刻で複雑なものにしています。

地域包括支援センターの役割と実践的なアプローチ

地域包括支援センターは、高齢者支援を主軸としつつも、地域住民の身近な相談窓口として、経済的困窮を抱える家庭を含む様々なケースに対応しています。複合的な課題を抱えるこうした家庭への支援において、地域包括支援センターが担う役割と実践的なアプローチには以下のようなものがあります。

  1. 早期発見と包括的アセスメント: 経済的困窮は外見からは見えにくい場合があります。日常の相談業務や地域でのネットワークを通じて、サインを見逃さない感度が必要です。アセスメントにおいては、単に所得状況を確認するだけでなく、家族構成、健康状態、就労状況、住居環境、子どもの状況、家族関係、社会とのつながりなどを総合的に把握することが重要です。困窮の背景にある多重債務、疾病、失業、家庭内の問題などを丁寧に聞き取り、真のニーズを見極めます。地域包括支援センターの主任ケアマネジャーや社会福祉士、保健師などがそれぞれの専門性を活かし、多角的な視点からアセスメントを行うことが求められます。

  2. 社会資源の活用とつなぎ: 経済的困窮への直接的な支援には、生活保護制度、社会福祉資金貸付制度、住居確保給付金、各種手当(児童扶養手当、就学援助等)など、行政の制度があります。これらの制度は複雑であり、申請手続きも容易でない場合があります。地域包括支援センターはこれらの制度に関する正確な情報を提供し、必要に応じて申請支援を行うことができます。 加えて、NPOや地域団体が提供するフードバンク、子ども食堂、学習支援、就労支援、家計相談、無料低額診療などの社会資源も重要な選択肢です。これらの社会資源は、行政の制度ではカバーしきれないニーズに応えたり、より柔軟な支援を提供したりする可能性があります。地域包括支援センターは、地域の社会資源に関する情報を収集・整理し、個別のケースに応じて適切な資源へとつなぐハブとしての役割を担います。

  3. 多職種・多機関連携の強化: 経済的困窮家庭が抱える問題は、福祉、医療、教育、労働、司法など、様々な分野にまたがることが一般的です。そのため、地域包括支援センター単独での対応には限界があります。行政の生活困窮者自立支援担当部署、社会福祉協議会、ハローワーク、学校、医療機関、弁護士会、地域包括ケアシステムの他機関(医療機関、薬局、介護事業所等)、民生委員、地域のNPOなど、多様な主体との連携が不可欠です。 連携においては、情報共有のルールや経路を明確にし、それぞれの機関の役割と専門性を理解した上で、共通の目標に向けて協力する体制を構築することが重要です。定期的な会議や事例検討会などを通じて、顔の見える関係を築き、スムーズな連携を図ることが、効果的な支援につながります。

  4. 家族のエンパワメント支援: 経済的困窮は、家族から自信や希望を奪い、無力感をもたらすことがあります。支援においては、単に経済的な援助を行うだけでなく、家族自身が抱える問題に対処し、状況を改善していく力を取り戻せるよう、エンパワメントの視点を持つことが重要です。家族の話を傾聴し、彼らが持つ強みや資源(家族内の支え合い、地域とのつながりなど)を引き出し、自立に向けた具体的な目標設定とその達成を伴走的に支援します。相談窓口としての機能だけでなく、家族同士や地域住民との交流の機会を提供することも、孤立を防ぎ、エンパワメントを促す上で有効です。

まとめ

経済的困窮は、現代の多様な家族が直面する深刻な課題であり、家族のウェルビーイングを総合的に低下させる要因となります。地域包括支援センターは、地域における総合的な相談機関として、経済的困窮を背景とした複合的な課題を抱える家庭に対し、早期発見、包括的アセスメント、多様な社会資源の活用、そして多職種・多機関連携を強化することで、効果的な支援を提供していくことが求められています。

この課題への対応は、単に経済的な問題を解決するだけでなく、家族関係の改善、子どもの健全な成長支援、高齢者・障がい者の適切なケア確保、そして家族全体の心身の健康維持・向上へとつながる、地域社会の包容性を高める重要な取り組みです。日々の業務の中で、経済的困難のサインを見逃さず、複合的な視点からアセスメントを行い、地域の多様な社会資源や関係機関と連携しながら、困難を抱える家族が再び希望を持って生活できるよう、共に歩む支援が期待されています。

本稿が、経済的困窮家庭への支援実践における一助となれば幸いです。