LGBTQ+家族への地域包括支援:多様なニーズに応えるアセスメントと連携の視点
はじめに
現代社会において、家族のあり方は多様化しており、伝統的な枠組みにとらわれない様々な形態が存在します。その一つに、性的指向や性自認に関する多様性を持つ人々(LGBTQ+)によって構成される家族があります。地域包括支援センターをはじめとする支援機関は、これらの多様な家族が地域社会で安心して暮らせるよう、包容的な支援を提供することが求められています。
しかしながら、LGBTQ+家族は、社会的な偏見や法的な位置づけの課題、既存の社会資源や制度が想定する「家族像」とのずれなどから、特有の困難を抱えることがあります。これにより、必要な支援になかなかアクセスできない、あるいは支援機関に対して情報開示をためらうといった状況が生じ得ます。
本稿では、多様な家族形態としてのLGBTQ+家族を地域包括支援センターが支援する上で考慮すべき課題、そして多角的なニーズに対応するためのアセスメントの視点と、効果的な多職種・多機関連携の重要性について考察します。支援現場において、より質の高い包括的な支援を提供するための示唆となれば幸いです。
LGBTQ+家族が抱える課題と地域包括支援センターの役割
LGBTQ+家族が直面する課題は多岐にわたります。主なものとして、以下のような点が挙げられます。
- 法的な課題: 同性婚や事実婚の法的な位置づけの不明確さ(自治体のパートナーシップ制度はあるものの、法的な拘束力は限定的である場合が多い)、相続権、親権、医療同意権などに関する課題。
- 社会的な偏見・差別: 社会的な無理解や偏見に起因する、差別的な言動や排除の経験。これが支援機関への不信感につながることもあります。
- 社会資源・制度の利用における壁: 既存の社会資源や制度が異性間の夫婦や親子関係を前提としている場合が多く、LGBTQ+家族のニーズに合致しない、あるいは利用申請時に困難を伴うことがあります。
- インフォーマルサポートの課題: 家族や親戚からの理解や支持が得られにくい場合、孤立しやすく、インフォーマルなサポートネットワークが脆弱になることがあります。
- 情報の不足: LGBTQ+家族向けの専門的な情報や相談窓口に関する情報が不足している、あるいは探しにくい。
地域包括支援センターは、高齢者の総合相談窓口であると同時に、地域の様々な支援課題に対応する包括的な機能を持つ機関です。その中核機能である「包括的・継続的ケアマネジメント支援」「権利擁護」「様々な社会資源の活用促進」といった視点は、まさにLGBTQ+家族への支援においても重要な役割を果たし得ます。
多様なニーズに応えるアセスメントの視点
LGBTQ+家族への効果的な支援を行うためには、既存の枠組みにとらわれない、丁寧で包括的なアセスメントが不可欠です。アセスメントにおいては、以下のような視点を持つことが重要です。
- 本人の理解と意思の尊重: 性的指向や性自認に関する情報を、本人が自らの意思で、安全だと感じられる環境で開示できるような関係性を構築すること。アウティング(本人の同意なく第三者に性的指向や性自認を暴露すること)は絶対に避けなければなりません。
- 「家族」の定義を広げる: 法的な関係性だけでなく、パートナー、友人、地域内の互助関係など、本人が「家族」あるいはそれに準ずる大切な関係性として捉えている人々を含めて、その関係性を理解しようと努めること。誰がキーパーソンであるか、どのようなサポートネットワークがあるかを把握します。
- 抱える困難の特定: 高齢や障害といった一般的な支援ニーズに加え、LGBTQ+であることに起因する固有の困難(例:カミングアウトに関する悩み、過去の差別経験によるトラウマ、パートナーの法的な位置づけに関する不安、適合手術やホルモン治療に関する課題など)を丁寧に聞き取ります。
- 既存制度・社会資源の適用可能性と限界: 介護保険、医療保険、年金、生活保護などの既存制度や、地域の相談窓口、医療機関などが、LGBTQ+家族の現状にどのように適用可能か、あるいはどのような壁があるかを具体的に検討します。自治体のパートナーシップ制度の有無や内容も確認します。
- 支援に関する要望と期待: 本人や家族がどのような支援を求めているのか、支援機関に何を期待しているのかを具体的に把握します。過去の支援経験や、それに対する評価も参考にします。
アセスメントの過程では、標準的なアセスメントシートの項目だけでは捉えきれない情報があることを認識し、柔軟な聞き取りと傾聴の姿勢を持つことが求められます。
多職種・多機関連携の重要性
LGBTQ+家族が抱える課題は複雑かつ複合的であることが多く、地域包括支援センター単独で全てのニーズに対応することは困難です。そのため、多職種・多機関との連携が極めて重要になります。
連携対象となりうる機関や専門職は多岐にわたります。
- 医療機関: 性別適合手術やホルモン治療、HIV/AIDSに関する診療など、特定の医療ニーズを持つ場合があります。精神的なサポートが必要な場合もあります。
- 法律専門家: 遺言、相続、後見制度、パートナーシップに関する法的な相談に対応できる弁護士や司法書士。
- NPO/NGO・当事者団体: LGBTQ+コミュニティに特化した支援を提供している団体や、ピアサポートの機会を提供している団体。専門的な情報や知見、当事者同士のネットワークを提供してもらえます。
- 行政機関: 自治体の人権課、多文化共生担当課など、LGBTQ+に関する施策や相談窓口を持つ部署。
- 人権擁護機関: 法務局など、人権に関する相談や啓発活動を行っている機関。
連携にあたっては、以下の点に留意する必要があります。
- 連携先の情報収集: どのような専門機関や団体が地域にあるのか、どのような支援内容を提供しているのかを事前に把握しておくことが重要です。
- 連携における倫理的配慮: 連携先に情報を提供する際は、必ず本人の明確な同意を得ること。また、連携先がLGBTQ+に関する基本的な理解を持っているかを確認することも大切です。
- 顔の見える関係づくり: 可能であれば、連携先の担当者と事前に情報交換や研修の機会を持つことで、円滑な連携につながります。
- 「つなぐ」ことの重要性: 支援が必要な本人や家族を適切な専門機関や社会資源に「つなぐ」ことが、地域包括支援センターの重要な役割の一つとなります。つないで終わりではなく、その後の状況も把握するよう努めます。
結論
多様な家族形態の一つであるLGBTQ+家族への支援は、地域包括支援センターにとって新たな、しかし喫緊の課題です。既存の福祉制度や地域支援の枠組みだけでは捉えきれない多様なニーズや困難が存在することを理解し、柔軟なアセスメントと、専門機関や当事者団体等を含む多角的な連携を強化することが不可欠です。
社会福祉士として、私たちは常に変化する社会状況と家族の多様性を理解し、一人ひとりの尊厳と自己決定権を尊重した支援を提供することが求められています。LGBTQ+家族への支援もその例外ではありません。本稿で述べたアセスメントと連携の視点が、日々の業務において、多様な家族が安心して地域社会に包摂されるための支援を実践する一助となれば幸いです。今後も、この分野に関する最新の知見や先進的な取り組みについて情報発信を続けてまいります。