成年後見制度利用者等がいる家族への地域包括支援:制度利用後の地域生活を支える視点
成年後見制度等を利用する方と家族への地域包括支援の重要性
高齢化の進展に伴い、認知症、知的障害、精神障害などにより判断能力が十分でない方への支援ニーズは多様化・複雑化しています。そうした方々の権利を擁護し、財産管理や生活支援を行うための重要な制度として、成年後見制度や日常生活自立支援事業などがあります。これらの制度の利用者は年々増加傾向にあり、地域包括支援センターの業務においても、制度利用中またはこれから利用を検討する方やそのご家族への関わりが増えていることと存じます。
成年後見制度等は、単に手続きを行うだけでなく、利用者のその後の地域での暮らしに深く関わるものです。制度を利用している本人やそのご家族が、地域で安心して自分らしい生活を続けるためには、後見人等や関係機関との連携はもちろん、地域包括支援センターによる多角的な視点からの支援が不可欠となります。
本稿では、成年後見制度等の利用者が地域で直面しうる課題、そして地域包括支援センターが本人やそのご家族に対し、制度利用後の地域生活をどのように支え、ウェルビーイング向上に貢献できるかについて、実践的な視点から考察いたします。
成年後見制度等利用者が地域で直面しうる課題
成年後見制度や任意後見制度、さらには市町村社会福祉協議会が実施する日常生活自立支援事業(福祉サービス利用援助事業)などは、本人の意思決定を尊重し、権利を擁護するための重要なツールです。しかし、これらの制度を利用することが、同時に新たな地域生活上の課題を生む可能性もあります。
例えば、以下のような課題が挙げられます。
- 後見人等との関係性: 特に専門職後見人や市民後見人が選任された場合、本人や親族が後見人等との関係構築に難しさを感じることがあります。また、親族後見人の場合は、後見業務の負担や他の親族との関係悪化などが生じることがあります。
- 地域からの孤立: 制度利用がきっかけで、地域住民との関わりが希薄になったり、本人が地域活動への参加に消極的になったりするケースが考えられます。財産管理が厳格になることで、趣味や交流のための支出が制限され、生活の質が低下する可能性もあります。
- サービス利用の調整: ケアプランの作成やサービス事業所との契約は後見人等が行いますが、本人の意向が十分に反映されなかったり、必要なサービスが円滑に利用できなかったりすることがあります。
- 住居に関する課題: 施設入所や転居が必要になった場合の意思決定や手続き、現在の住居の管理などにおいて、本人や家族の意向と後見人等の判断が一致しない場合があります。
- 家族の負担と役割の変化: これまで本人の財産管理や身の回りの世話を担ってきた家族は、後見人等にその役割を委ねることになりますが、精神的な負担や後見人等との連携に関する戸惑いを抱えることがあります。また、家族が親族後見人となった場合は、後見業務そのものが大きな負担となります。
これらの課題は、制度を利用することで本人の権利が擁護されている一方で、その人らしい地域生活を営む上での障壁となりうるものです。地域包括支援センターは、こうした課題を早期に察知し、本人と家族、そして後見人等を含む関係者全体を視野に入れた支援を行うことが求められます。
本人・家族への伴走支援の視点
地域包括支援センターは、成年後見制度等を利用している本人とそのご家族に対し、制度利用の初期段階から、利用中の状況変化に応じた対応、そして場合によっては制度終了後まで、継続的に伴走していく視点が重要です。
本人への支援
本人の判断能力が低下していても、残された能力やこれまでの生活歴、価値観、そして現在の希望を丁寧に聞き取り、把握する努力が必要です。後見人等と連携し、本人の意思が最大限尊重された意思決定が行われるようサポートします。地域資源の活用や社会参加を促し、生活の質を維持・向上させるための提案や調整を行います。本人が後見人等に直接言えない思いを、地域包括支援センターの職員が傾聴し、必要に応じて後見人等に橋渡しすることも重要な役割です。
家族への支援
成年後見制度等の利用は、家族にとっても大きな変化です。親族後見人となる場合は、裁判所への報告義務など後見業務の負担が大きく、他の親族との調整に苦慮することもあります。専門職後見人等が選任された場合でも、これまで本人のことを一番理解していたという自負と、後見人等への任せきれない不安との間で揺れ動くことがあります。
地域包括支援センターは、ご家族の抱える精神的な負担、経済的な不安、そして後見人等との連携に関する戸惑いなどに対し、傾聴や情報提供を行います。親族後見人に対しては、後見業務に関する情報提供や相談先の案内、弁護士会や司法書士会、社会福祉士会などが実施する親族後見人向け研修の情報提供などを行うことで、負担軽減と適切な後見業務遂行を支援します。ご家族が後見人等と良好な関係を築き、本人を中心としたチームとして連携できるよう、調整役を担うこともあります。
多機関連携の重要性
成年後見制度等を利用する方への支援は、地域包括支援センター単独で完結するものではありません。後見人等(弁護士、司法書士、社会福祉士、市民後見人、親族後見人)、家庭裁判所、市町村の権利擁護センター、相談支援事業所、障害者基幹相談支援センター、医療機関、地域の福祉・介護サービス事業所、民生委員、地域住民、NPOなど、多岐にわたる機関・人々との連携が不可欠です。
連携のポイント
- 情報共有: 本人の状況、家族の状況、後見人等の選任状況や後見業務の進捗、地域生活上の課題などについて、関係者間で適切に情報共有を行うことが重要です。ただし、情報の共有範囲や方法は、本人の意思や状況、そして後見人等の方針を踏まえて慎重に検討する必要があります。
- 役割分担の明確化: 各機関がどのような役割を担うのかを明確にし、重複や漏れがないように調整します。地域包括支援センターは、ケアマネジメントや総合相談の立場から、後見人等が行う法律的な側面からの支援と、地域での具体的な生活支援との橋渡し役となりえます。
- 定期的な連絡・会議: 本人の状況に変化がないか、新たな課題が生じていないかを確認するため、後見人等や関係機関と定期的に連絡を取り合ったり、必要に応じて会議を開催したりすることが有効です。ケアカンファレンス等に後見人等に参加してもらうことも有効な方法です。
- 権利擁護ネットワークへの参画: 地域における権利擁護ネットワークの構築や強化に積極的に参画し、専門職後見人等や権利擁護センター等との顔の見える関係を構築することが、個別のケースにおける連携を円滑に進める上で重要です。
特に、親族後見人に対する地域包括支援センターからの継続的な声かけや相談対応は、親族後見人が孤立せず、適切な支援を受けながら後見業務を遂行していく上で非常に重要です。
実践的な対応と今後の展望
地域包括支援センターの社会福祉士が、成年後見制度等を利用する本人や家族を支援する上で、以下のような実践的な対応が考えられます。
- アセスメント: 本人の判断能力の状況だけでなく、身体状況、生活状況、地域とのつながり、家族の状況、後見人等との関係性、経済状況、利用しているサービス、そして本人の意思や希望などを多角的にアセスメントします。後見等開始決定前の情報収集も、後見開始後の支援の基盤となります。
- ケアプランへの反映: アセスメント結果に基づき、ケアプランに権利擁護の視点を盛り込みます。後見人等と連携し、ケアプランの内容やサービス利用について共有・調整を行います。
- 定期的な状況確認: 後見人等任期中の本人の状況は変化しうるため、定期的に訪問や連絡を行い、本人の状態や地域生活の状況を確認します。
- 情報提供と啓発: 成年後見制度等に関する制度の概要や利用方法について、本人やご家族、地域住民向けに情報提供を行います。また、地域の支援者向けに、成年後見制度等に関する研修会などを企画・実施することも有効です。
成年後見制度等を利用する方への支援は、今後ますます重要になります。地域包括支援センターには、後見制度等に関する基本的な知識を持ち、本人とご家族、そして後見人等を含む多様な関係者をつなぐハブ機能としての役割が期待されています。今後、市民後見人の育成・活動支援や、小規模多機能型居宅介護など地域密着型サービスとの連携強化など、制度利用者の地域生活を支えるための更なる取り組みが求められるでしょう。
まとめ
成年後見制度等を利用している本人やそのご家族への地域包括支援は、本人・家族のウェルビーイングを確保し、地域での包容的な暮らしを実現するために不可欠な要素です。地域包括支援センターは、制度利用者が直面しうる地域生活上の課題を深く理解し、本人とご家族への丁寧な伴走支援、そして後見人等を含む多機関との強固な連携を通じて、その重要な役割を果たしていくことが求められます。
今後も、地域包括支援センターが多角的な視点を持ち、権利擁護支援の中核的な機関として、成年後見制度等を利用する方々が地域で安心して暮らせる環境づくりに貢献していくことが期待されます。