家族と社会の包容性ラボ

成年年齢引き下げが家族に与える影響と地域包括支援センターの役割

Tags: 成年年齢, 若年者支援, 家族支援, 地域包括支援センター, 権利擁護

はじめに

2022年4月1日より、民法の改正により成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。これにより、18歳、19歳の方は親の同意なく様々な契約を結ぶことができるようになるなど、社会生活における権利と責任が拡大しました。この変化は、若年者本人だけでなく、その家族、そして地域社会全体に影響を及ぼしています。

特に、地域包括支援センターをはじめとする地域の支援機関においては、成年となった18歳・19歳の方や、その家族からの相談ニーズが多様化・複雑化する可能性が考えられます。本稿では、成年年齢引き下げが家族に与える影響と、地域包括支援センターの皆様がこうした変化にどのように向き合い、支援を提供していくべきかについて考察します。

成年年齢引き下げによる社会生活上の主な変化

成年年齢が18歳となったことで、若年者は親権者の同意なく、以下の行為が可能となりました。

一方で、飲酒、喫煙、公営競技(競馬、競輪、オートレース、競艇)への参加は引き続き20歳未満は禁止されています。このように、成年として認められる範囲と、引き続き年齢制限がある範囲があることを理解しておく必要があります。

成年年齢引き下げが家族に与える影響

成年年齢引き下げは、家族関係や子育てにも影響を与えます。

経済的な課題

親権者の同意なく契約が可能になったことで、若年者が消費者トラブルに巻き込まれるリスクが増加しています。例えば、マルチ商法や悪質な高額商品の契約、エステティックサロンや語学教室といった継続的なサービスの契約などです。若年者が契約内容を十分に理解せずにトラブルに巻き込まれた場合、その対応は本人または家族が担うことになります。親としては、子が成年になったとはいえ、経済的な自立や契約に関する知識が十分でない場合、子の行動に対してどこまで関与すべきか、といった悩みを抱えることになります。

親権・扶養義務の課題

成年年齢が18歳になったことで、親権は原則として子が18歳になった時点で終了します。ただし、親の扶養義務は「子が未成熟である場合」に認められるため、大学等に進学して経済的に自立していない子に対しては、引き続き扶養義務が継続すると解釈されています。しかし、親権がなくなることで、子の財産管理や身上監護について、親が法的に行える範囲が限定されることになります。子が障害や疾患等により判断能力に不安がある場合など、親権終了後の支援のあり方が新たな課題となります。

家族間のコミュニケーションと意思決定

子が成年となったことで、家族間のコミュニケーションや意思決定のプロセスも変化します。子は自身の意思に基づいて様々なことを決定する権利を得ますが、親としては子の将来を案じ、助言を与えたいと考えるのが自然です。しかし、成年である子への過度な干渉は、子の自立を妨げる可能性もあります。家族として子の意思を尊重しつつ、必要に応じてサポートを行うための新たな関係性の構築が求められます。特に、子が困難を抱えている場合、家族がどのように情報収集を行い、本人を支えていくかが重要になります。

地域包括支援センターに求められる視点と対応

地域包括支援センターは、地域の高齢者を中核的な対象としていますが、地域住民の総合的な相談窓口としての機能も期待されており、高齢者に関わる家族からの相談を通じて、多様な世代の課題に直面する機会が増えています。成年年齢引き下げによって顕在化する若年者やその家族からの相談に対し、地域包括支援センターは以下の視点を持つことが重要です。

1. 多様な相談内容への対応力強化

高齢者の家族からの相談として、「成年になった子が消費者トラブルに遭ったが、親としてどうすればよいか」「障害のある子が成年になったが、親亡き後のことが心配」「経済的に自立できていない成年になった子への扶養について」といった内容が増える可能性があります。これらの相談に対し、民法、消費者契約法、障害者総合支援法など関連法の知識に加え、若年者の特性や置かれた状況(ニート・ひきこもり、経済的困窮、障害、疾患等)への理解が必要です。

2. 若年者の権利擁護と意思決定支援

成年となった若年者は、自ら契約を結び、様々な決定を行う権利を持ちます。支援にあたっては、本人の意思を最大限尊重し、権利擁護の視点を持つことが不可欠です。判断能力に不安がある若年者に対しては、成年後見制度の活用検討や、意思決定支援ガイドライン等を参考に、本人の意思を丁寧に確認するプロセスが求められます。

3. 家族への情報提供と伴走支援

不安を抱える家族に対し、成年年齢引き下げに関する正確な情報提供(例:消費者契約に関する知識、クーリングオフ制度、関連する相談窓口など)を行うことが重要です。また、子が直面する課題(消費者トラブル、精神疾患、障害、経済的困難など)に対して、家族だけで抱え込まずに済むよう、傾聴と共感に基づいた伴走支援を行います。家族会やピアサポートの情報提供も有効です。

4. 多機関・多職種連携の強化

成年年齢引き下げに関わる課題は、地域包括支援センター単独で解決できるものばかりではありません。若年者やその家族を取り巻く課題に対応するため、以下の機関との連携を強化することが求められます。

これらの機関と日頃から連携体制を構築し、必要に応じて適切な専門機関へつなぐことが重要です。

おわりに

成年年齢引き下げは、若年者と家族の新たな関係性を生み出すと同時に、様々な課題も顕在化させています。地域包括支援センターは、高齢者の支援を通じて築き上げてきた地域のネットワークと総合的な相談対応のノウハウを活かし、成年となった若年者とその家族が地域社会で安心して暮らせるよう支援していくことが期待されます。

そのためには、関係法令や制度に関する最新情報の継続的な学習、多様な相談内容に対応するための専門性向上、そして他機関との一層の連携強化が不可欠です。本稿が、皆様の日々の業務における一助となれば幸いです。多様な家族が暮らしやすい包容的な社会の実現に向けて、共に歩んでいきましょう。